みんな水の中 【読書記録】
読書の時間は、癒しにもつながり、さまざまなジャンルの本を読むのが良い気分転換にもなっています。家庭医や産業医として、さまざまなバックグランドを持つ人々と接するうえで、自らの壁を越えて人や価値観の多様性に対する寛容を育てるうえでも、私にとって読書は欠かせません。今回は医学書院から出版されている『シリーズケアをひらく』のなかから、『みんな水の中』です。気づきがあり、読んで良かったと思える本の一つです。
この本を読んでいると文中にマルクス・アウレリウスの『自省録』の記述があり、高校生の頃に読んだ自省録をふと思い出しました。皇帝の日々の記録ですが、大事なことは、『自省』、みずからを振り返るということが、マルクス・アウレリウスの生きた頃にすでにあり、自省の意義が尊重されていたことだろうと思います。しかも、いまだに読み継がれている。感慨深いです。
さらに、文中、ASDやADHDの界隈では、『ゾーン』にはいることを『過集中』として語られています。私自身は、ゾーンについては、AIBOを作った元ソニーの常務として知られる天外伺朗さんは、そうした集中する状態をフローと表現されていますが、同じような現象を表現されているのだと感じました。ASDでは『こだわり』、ADHDでは『衝動性』が、起爆剤として考えられていて、ある意味ゾーンに入りやすい特技を持っていると思います。それが素晴らしい業績につながることもよく知られています。
ときどき、『メンタルがある人は変わらないから』という持論で、医療者にアプローチを諦めることを推奨する医師もいますが、私は個人的には、『変わらないから』という一元論的な考えには同意できません。もしかしたら、医療者が無力さに苛まれるほどに裏切られたと感じることもあるかもしれませんが、果たしてそれが本当に『裏切り』なのか?何を持って『裏切り』としているのかについては、議論の余地があると考えています。
また作中、私が昨年の日本プライマリ・ケア連合学会のビブリオバトルで推奨させて頂いた村田沙耶香氏の『コンビニ人間』が、作者が文学と芸術について語り合う発達障害の自助グループで、もっとも反響が大きかった作品として紹介されています。
一見、娯楽に思える漫画やアニメ、ドラマ、映画について語り合い、それらを他者と共有することが多重スティグマに作用し、それらを低減させる。そうやって文学や芸術に触れることで、スティグマが減り、自ら外部に発信できるようになると、個人的スティグマだけではなく、社会的スティグマも減る。
まずは自らにしっくりくる文学や芸術に出会えることがスティグマ減少のための第一歩。そのような視点で文学や芸術について考えてみますと、これまで以上にアートに興味が湧いてきます。