家庭医の視点を持つ産業保健活動を実践する  ~安藤労働衛生コンサルタント事務所~

ホームページを開設しました https://akemian789.wixsite.com/website-4

家庭医の視点を持つ産業保健活動 ①

f:id:DiverseGP:20220106103859p:plain

プライマリ・ケア医、かかりつけ医が果たす産業医の役割について、一番に思い浮かぶものは、何でしょうか?

 

おそらく、まず最初に思い浮かぶのは

①『健康診断』の判定と『事後措置』ではないでしょうか。

いずれも大変重要な役割です。

 

とはいえ、

企業や社会的に期待されている産業医の役割はこれで十分というわけではありません。

①のほかに、重要な産業医の役割として代表的なものには

  • 就業の可否に関する医学的判断
  • 健康を維持しながら就業を継続するための作業環境の整備や改善に関する事業者への助言
  • 就業を継続するために、持病の治療やストレス対策、健康の維持増進等に関する労働者への助言

等があります。

 

さらに、最も大切な産業医の役割は、これらの期待される産業医職務を労働者本人、事業者側の管理監督者、人事担当者、産業保健スタッフと一緒に遂行していくということだと思います。

 

これらの『産業医に求められる役割』では、患者中心の医療や家族志向性、健康生成論などを意識し、コミュニケーション力を生かしてチーム医療を実践し、患者自身が多様な疾患を抱えているだけではなく、さまざまな要因が整理されていないために状況が非常に複雑困難となっている患者を日々診療している家庭医の専門性が生かされる場面が多いと感じています。

 

例えば、職場におけるストレスの要因として最も多いのは人間関係といわれています。一見、人間関係のストレスは、労働者本人の問題のように思えることであっても、実はその人のストレスを左右するような価値観や考え方の偏り等には、人類学でいう、共時や通時が大きく影響していることも多いです。そのような視点からストレスを抱える個人を俯瞰してみてみますと、誰かの責任(労働者のみの責任)というのではなく、誰のせいでもないけれど、そこに問題があるという中動態的な問題としてとらえることができます。人間関係のストレスを感じている本人にできる対策として、個人のレジリエンス力を上げるようなさまざまな方法が知られています。しかし、前述のように人間関係等によるストレスは「個人だけの問題ではない」という視点に立つと、職場の雰囲気といった共時を整えることの重要性にも気づかされます。最近では、ポジティブメンタルヘルスというものが注目され、職場の雰囲気づくりにも生かされています。

 

もちろん、高ストレスを抱える労働者に対して、まずは労働環境が適切かどうかの判断を行うことも大切です。睡眠や食事といった基本的な人間の健康維持に欠かせない生活習慣の確認も大切です。近年では、ストレスチェックが普及してきており、そうしたツールを利用することにより、メンタル疾患の発症予防につながることもあります。その一方で、ストレスの原因が全て職場にあるとも限りません。家族間で問題が発生しているような場合、家族図を用いたり、家族のライフサイクルを意識しながら相談者とご家族との関係性や成育歴に意識を広げることで、ストレスを抱える本人(相談者)が癒されることも、家庭医は日常診療で経験しています。

 

産業保健スタッフに恵まれた大企業とは異なり、中小企業や小規模事業所では、こうした役割を果たすことができる産業医が必要だと感じています。

 

それこそが、家庭医の視点を持つ、産業保健活動の大義だと考えています。

 

この記事は、

【日本プライマリ・ケア連合学会 産業保健に関するワーキンググループ】の

1月配信記事を転記させていただいております。